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WORDS

-それ以外に抽象しようのない-

時間のこと-1.時計の話から自然の斉一性へ(途中)

物理学

 ある人に量子論について説明して欲しいと頼まれて,喜んで文章を作成しています.経緯は省略しますが,説明の構成を考えていたら時間の話を書いていました.時間について書いた文章に一部手を加えてここに掲載します.

 

(中略)

 時間を定量化するということは,時計(ストップウォッチ)を製作することと変わりありません.製作されたストップウォッチは,人間が「いーち,にーい,さーん」と数えるのとは異なり,等間隔で時を刻みます.

 

 ただしこの作業については注意があります.それは「物理現象の変化の基準となる等間隔の時間概念によって変化が認識される」のではなく「変化が認識されるので,その基準としての,等間隔の時間概念が形成された」という歴史的経緯があるということです.
 「秒の定義」の歴史的経緯を説明します.はじめに,地球の1日の長さ,つまり地球の自転の周期がどの日も同じであるとされ,地球の1日の長さを24*3,600等分したものが「秒」であると定められました.しかしその定義を元に,時計をいくら精密に製作しても,微妙な狂い,具体的には10^(-3)秒程度,日によって1日の長さが異なるという事態が生じました.

 この事態について考えてみます.1日の長さが一定であるという仮定をするということは,どの1日の長さを24*3,600等分して1秒と定義しても構わない,ということです.そこでたとえば「6月23日に太陽の上端が水辺線に接する瞬間」から「翌6月24日に太陽の上端が水辺線に接する瞬間」までを「1日」とし,この1日を1秒の定義に用いて,時計を製作します.ここで製作する時計は,理想的な振り子時計としましょう.「理想的な」というのは,振り子が揺れるさい,空気抵抗や,振り子のおもりをつるヒモとヒモの支えとの接合部とのあいだの摩擦などが生じないという意味です.要は,停止することなく永久に振幅を一定に保ち続ける振り子時計ということです.そして,6月23日の日の出直後から6月24日の日の出の直前まで,振り子が(簡単のため)24*3,600回振動するものとします.時計は理想的なものなので「振り子時計が1日に24*3,600回の往復を行うにあたり,任意の1往復にかかる時間を1秒と定義する」ことにして差し支えありません.ただし「振り子の振動に,太陽の日差しの当たり方などを含めたいっさいの地球の自転による効果は影響を与えない」ものとします.

 ここで仮定されていることは,振り子の運動の斉一性です.つまり,「振り子の1日の全24*3,600回の往復のうちどの2つを取って比較しても,(往復の条件が互いに区別できないため)往復が区別できない」ということです(もし「振り子の振動の条件が等しく,振り子の振動が毎回区別できないのに,振動の周期が回によって異なることがある」と仮定すると何が言えるか.さらには,振動の周期の変化のしかたに(確率的にすら)規則性がないと仮定すると何が言えるか).この斉一性の仮定のもとでは,振り子の1往復にかかる時間は,24*3,600回のうちどれについても等しいはずです.

 さて,以上の通り完璧に動作する振り子時計を作り上げたあなたは,この時計を見ながら日々の暮らしを送りました.理想的な振り子時計ライフを送りはじめてちょうど3年後の6月23日の日の出の瞬間,あなたは衝撃的な瞬間を目にします.なんと,日の出の瞬間に,振り子の位置がぴったり1往復を終える場所になかったのです(たとえば1/4周期のずれ,などを想像してください)!時計が理想的であるとしているいま,この事態は,仮定としていた「地球の1日の長さの斉一性」が破れるということを意味します

 

 さて,地球の1日の長さを秒の定義に用いると,理想的な時計のよって刻まれる時との間にずれが生じることがわかりました.地球の1日の長さが変化する原因は,海の満ち引きに関わる潮汐力,地殻変動などであるようです.

 したがって,地球の自転とは異なる(周期的な)現象を,秒の定義に用いる必要が生じます.そこで,ほかの「それに基づいて秒を定義し理想的な時計を作成する」ための現象を探してみましょう.ところが,そのような理想的な自然現象(たとえば,周期が永久に不変の周期運動)を探してみても,見つかりません.その理由は,(経験的に)どのような自然現象にも,摩擦によるエネルギーの損失などの(理想的な状況にとっては)邪魔な要素がつきまとうからです.したがって,いかなる現象を基準として秒を定義したとしても,理想的な時計との間にはずれが生じてしまうことになってしまいます.