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WORDS

-それ以外に抽象しようのない-

詩人の仕事の未完成

詩人の仕事の未完成

 

 アンリ・ポアンカレは著書『科学と方法』の中でこう語っている。

數學とは、異なった事柄に同一の名稱を與える技術であると、わたくしは何處かに於てかすでに語ったかのように思う。*1

意訳すると「数学とは異なる事柄に同じ名前を与える技術である」となるこの言葉の対として「詩とは同じ事柄に異なる名前を与える技術である」というものがある。この後半のほうの言葉の出典をしばらく探したが,見つかっていない。僕がいま注目したいのは,この後半部だ。

 詩人の仕事は永遠に完成しない。もしも1つのことに異なる表現を与えるのが詩人の仕事なら。特にその「1つのこと」が詩人自らについてであるなら、なおさらだ。

 厄介なのは、詩人がデカルト的な「枚挙」の規則を適用したときだ。異なる表現はほとんど同じことを別のかたちで述べたものであるにも関わらず、詩人はごくごく微細な差異を以ってそれら異なる表現を全く異なる事実と見なすため、詩人の枚挙は終わらない。

 詩人にとっては異なる言語が異なる世界を示しているのだろうか。

*1:ポアンカレ『改訳 科学と方法』(吉田洋一訳,1953年,岩波文庫)p.37 ,第一篇 第二章「数学の将来」より