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WORDS

-それ以外に抽象しようのない-

慣性系とは

慣性系とは

 

 

 運動方程式によると,力の関数形を決定するためには加速度の測定を行えばよい。定義から,加速度の測定には座標系の設定が必要である。ところでなんらかの種類の力を測定したとき,その測定に用いた座標系が「何か」に対して運動をしていないという保証はない。なぜならば,あらゆる座標系はそれ自身の運動を測定できないからだ。もしもある座標系が別の座標系に対して加速度運動をしている場合,それぞれの座標系で「同じ」力を測定したとしても,その力の関数形あるいは「同時刻」における値はそれぞれ異なる。そのため「きれいな」関数形として得られた力が,「本当に」「きれいな」関数形をしているのかどうかは,わからない。しかし「きれい」で「シンプル」関数形は扱いやすいし,根拠はないが「シンプル」な関数形こそがその力の「真の」関数形という感じがする。そこで「じゅうぶんシンプル」な関数形で力の書き下すことのできる座標系が1つ存在すると仮定し,これを「絶対空間」と呼ぶ。

 

 絶対空間においてある力(の関数形)を測定したとき,絶対空間に対して等速度で運動しているすべての座標系においてその力(の関数形)は全く等しい。このことを実験的に検証することも可能だが,数学的論証も可能である。その論証の結果得られる「『同じ』時刻における『同じ』位置が,互いに等速度運動する異なる2つの座標系のそれぞれにどのように表現されるか」という対応関係をGalilei変換という。Galilei変換における仮定について考察することが,特殊相対論の形成に関連する。

 また,一般には絶対空間においてシンプルな関数形を持っている力を,絶対空間に対して加速度運動をする座標系において測定すると,その関数形は比較的複雑になる。

 

 「絶対空間」はNewtonの導入した概念の呼び名である。おそらくNewtonとしては「宇宙空間は絶対空間である」ということを考えたのだろうと想像している。というのも,たとえば地球と太陽との間に生じる万有引力の関数形として逆二乗則を得たが,この関数形を記述する加速度を定義する座標系は宇宙空間である。宇宙空間が絶対空間であれば,宇宙空間という座標系において得られた万有引力の関数形はシンプルで綺麗な「真の」力となる。そして宇宙空間に対して加速度運動する座標系において万有引力を測定すると,その関数形はシンプルではない比較的複雑なものとなるだろう。万有引力を記述する絶対空間である宇宙空間が他の座標系に対して加速度運動しているとすると,逆二乗のシンプルな形をした万有引力が「実は」「シンプル」ではないということになる。そのような事態をNewtonは避けたかったのではないだろうか。

 絶対空間に対して等速度で運動しているすべての座標系の各々に対して,絶対空間もまた等速度で運動しているので,絶対空間も,絶対空間に対して等速度で運動するすべての座標系も,数学的には等価であり区別ができない。したがって存在する「絶対空間」の数はただ1つには限定されないということになる。

 とりあえずある1つの座標系を絶対空間とし,その絶対空間と,それに対して等速度で運動する座標系を1つにまとめて,各々を「慣性系」と呼ぶことにしよう。そして慣性系の集まりをさしあたり「慣性系群」と呼ぶことにしよう。

 慣性系が1つ存在すると仮定し,その慣性系においてある力(の関数形あるいは値)を測定したとき,その慣性系に対して等速度で運動しているすべての座標系においてその力は全く等しい(形あるいは値をとる)。そしてそれらはすべて「慣性系」である。これら慣性系をすべてまとめて「慣性系群」と呼ぶ。

 

 さて,「慣性系群」は様々に存在することが可能である。というのも,異なる座標系は互いに加速度運動しているかもしれないのだが,「どの座標系を『慣性系』に選ぶか」には恣意性がある。どのような座標系であろうとも,それを慣性系に選んだ時点で,その座標系とそれに対して等速度運動する座標系はすべて「慣性系群」となる。そして選ばれた慣性系群に含まれない座標系はすべて「非慣性系」となる。しかし何を慣性系に選ぶかは我々の選択次第である。