砂漠のトカゲ

砂漠のトカゲ

 

 あらゆる言葉を言葉で定義しようという試みは,砂漠で地面の暑さに耐えかねて手足を上げ下げするトカゲのようではないか,などと思った。

 

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 (知っての通り)循環なしに,有限個の言葉をすべて,言葉だけで,定義することはできない。実際に示そう。

 全部で(m+n)個の言葉があったとして,m個の言葉をn個の言葉で定義したとする。m個の言葉は定義済みなので,残りのn個の言葉を定義したい。ここで定義済みのm個の言葉を使うと循環が生じるから,残るn個の言葉の中で定義をやりくりしなければならない。そこでn個の言葉のうち,n-k個を,残るk個の言葉によって定義できたとしよう。この操作を繰り返して,仮に,1個の言葉だけが未定義のまま残ったとしよう*1。ほかのn-1個の言葉は,残る1個の言葉を使用しているかどうかは別にして,定義されているから,残る1個の言葉を定義するために用いてはならない。仮に残る1個の言葉を定義するためには定義済みのn-1個のうちから言葉を選ばねばならないが,すると循環が生じてしまう。したがって,与えられた有限個の言葉を用いて循環なしに全ての言葉を定義することはできない。

 

 さて「与えられた有限個の言葉を,与えられた言葉の中だけで,循環なしにすべて定義する」ことが不可能であるとすれば,どうするか。

(1) 「循環なし」を諦める=循環を許容する

(2) 「有限個」を諦める=新たな語彙の追加・創造

(3) 「言葉だけ」を諦める=物質を見せるなり何か体験をさせるなりして「これがそれだよ」と言う

(4) 「定義する」を諦める=未定義語を残す

(5) (1)〜(4)の組み合わせ。例えば,(1)は許さず,(2)(3)(4)を両立することは可能だ。

(6) その他

 

 ところで「与えられたあらゆる語を定義する」と言う発想であるが,言葉を用いることによってある言葉の概念をはっきりと捉えることができるのでなければ,きっとその言葉の概念を捉えるには,もっと良い方法があるか,その言葉はそのままで理解されるものであるか,その言葉の存在が曖昧であると思う。明晰にならないのであれば,言葉は無理に使用しなくて良いと思う。

 

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 さて。ある語についてわかりやすく伝えるためには,ある語を説明する語は,疑問を持たれることのない,堅固な基礎となっていなければならない。ところが,ある時は明晰堅固な語も,別の場面では不確実であやふやなものに変わってしまったりする(目的のために,それを説明したり,それで説明したり,が変わってくる)。そうしてある言葉を説明したり,その言葉で別の語を説明したりする我々は,対角線上にある1対の手足を熱された地面につけている間は,もう1対の手足を熱から守ることのできる,トカゲに似ていないかね?

*1:残る言葉の数はもう少し多くてもいいからk個のままで考えてもよいが,1個のほうがわかりやすい。