映画「マンチェスター・バイ・ザ・シー」

映画「マンチェスター・バイ・ザ・シー

※あらすじを全て書くので注意 

 

 主人公のリーは,ボストンのアパートで便利屋をしている。彼は住人に頼まれては,水漏れを直したり,雪かきやゴミ捨てをする。彼の仕事ぶりはいいけれど,どこか人との関わりを避けており,無愛想で,口を開いたと思えば乱暴な言葉遣いをし,喧嘩っ早い。

 リーを演ずるケイシー・アフレックの演技は,全編を通じて寡黙・抑制的で,たとえキレる場面であっても完全には爆発しない,どこか抑えたところがある。

 そんなリーのもとに1本の電話がかかってくる。それは,慢性的な心臓病を患っていた兄のジョーが亡くなったことを告げるものだった。リーは兄の後始末をするために,かつて暮らしたマンチェスター・バイ・ザ・シーへと向かう。そして断片的に,彼が家族とマンチェスターで暮らした過去の記憶が思い出されるのだった。

 淡白に霞かかったような映像や賛美歌らしき音楽を使用するといった静謐な作風の中にも,シュールな演出やブラックジョーク,ウィットに富むセリフが散りばめられる映画となっている。観客に明からさまに笑いを促すものではないが,クスッとしたくなるユーモアがこの作品にはある。

 

 

 断片的に挿入される回想シーンから,リーとその家族の過去が少しずつ明らかになっていく。

 リーとジョーの両親はすでに他界していること。リーとジョー父親譲りのジョーク好きであったこと。ジョーには一人息子のパトリックがおり,パトリックの小さい頃からリーは一緒に釣りに行くなど仲良くしていること。ジョーには再婚らしき妻があったが,家事をせず酒浸りであったためかすでに別れていること。

 リーにはかつて妻子があったが,すでに離婚している。リーと妻の間にできた子供は全部で3人だったこと。自宅で深夜まで友人たちと飲み騒ぐリーはよい夫・よい父親であったとは言えなかったようだが,妻と子供を愛していたようではあったこと。そして暖炉の火の不始末のせいで,酔ったリーが外出している間に,3人の子供は火事で死んでしまったことー。リーが妻と別れ,マンチェスターを離れ,人付き合いを避ける最大の原因はここにあった。リーの孤独と不機嫌の理由はここにあった。

 

 兄のジョーは遺言を残していた。ジョーはリーに無断で,リーを遺産の管理人に,そして息子パトリックの後見人に指名していた。

 パトリックはこのマンチェスターに,アイスホッケーのクラブも,友人とのバンドも,2人の彼女も,そして父の残したボートもある。だからパトリックはマンチェスターで暮らしたい。そして口喧嘩ばかりするリーとも,一緒に暮らしたい。マンチェスターに根を張るパトリックと異なりリーはボストンから移りすみやすいー。

 けれどマンチェスターという街がリーに思い出させる記憶は憂鬱なものだ。そしてリーはつらい経験を乗り越えることができない。だからリーはパトリックを,信頼できる友人の養子に出す。

 

 

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 主人公の葛藤や,登場人物たちの取る行動の選択がどのような人間関係に起因しているかを読み取ることが主眼となる。何かを読み取ったり解釈したりはしなかった。

 言語にすれば単純だけれども,言語化のさいに脱落してしまうものは,実際に映画を見て確かめてほしい。