「自然現象が数式で記述できるのはなぜか」? -3

 

 

 

 前の記事では、(そのようなカテゴライズを認めるとして)生物や化学の対象とする自然現象が明らかに「数学で記述できる」と言っていいものか分からないと考えた。あるいは生物や化学が自然現象を扱う主要な方法が数学であるとは言い難いと考えた。そこでとりあえず「物理学の対象とする自然現象は数学で記述できる」「物理学がその対象を記述する主な方法が数学である」ということにして、我々がこれから考察する対象を物理学に絞った。これによって「自然現象が数学で記述できる」という漠然とした表現が、少しだけ詳細なものとなった。しかしそれでもなお漠然さは残る。さらなる厳密化の作業は、これから行う。

 

  (ところで、)生物学や化学の対象やその記述方法として数学が主要なものとは思われないと書いたが、とはいえ、生物学や化学が数式を扱わないというわけではない。量子化学や生物物理学のように、数式を扱うことが主要な作業内容となる分野もある。

 では、生物学や化学にカテゴライズされるような、数式を主要に扱う分野は、物理学とは異なるのだろうか?どのような共通点や相違点があるのだろうか?

 

  生物を対象とする自然科学における数式の使用の単純な例として、細胞分裂における細胞の個数の時間変化を考えてみよう。数式が醜いので後からTeX形式で書き直す。

 考えるのはあくまで単純化された例だ。例えば初め1個だった細胞が、時間の経過にしたがって分裂・増加するとしよう。時刻0で1個だった細胞は、時間Tが立つと2個になっているものとする。時刻Tに2個だった細胞は、さらに時間Tが経過して時刻2Tになると4個になっているものとする。このように、時刻tにn個だった細胞が、時刻t+Tには2n個になっているとしたら、時刻tにおける細胞の個数NはtとTを用いてどのように表されるだろうか?ただし最初に書いた通り、初期条件として時刻0でN=0であるとする。

 これについて考えるにあたっては、N(t)とN(t+T)との関係を考えればよい。まずはtがTの整数k倍の時を考えると,N(kT)=2N((k-1)T)なので

N(kT) = 2^2 N((k-2)T) = 2^3 N((k-3)T) =・・・= 2^(k-1) N(T) = 2^k N(0).

いまはtがTの整数倍しか考えていないが,kT=t(実数)仮定すると,k=t/Tなので

N(t) = 2^(t/T) N(0).

となる。ちなみにいまN(0)=1だ。

 

 ではこのように得られた式は「自然現象が数学で記述できる」には該当しないだろうか。もしもこのような式を指して「自然現象が数学で記述できる」と表現するのであれば,該当するだろう。しかしこのような,現象の数式による表現は「なぜ自然現象が数学で記述できるのか?」というような疑問を生むものだろうか?

 現象を数式で表すことに関連する作業の中で「自然現象を数式で記述できるのはなぜか?」という疑問を生むのは,どのようなだろうか?

 

  細胞分裂の例で示したように、少なくとも定量的に記述できる現象というのは幅広くある。すなわち複数の物理量のあいだに成り立つ関係を(等号を用いて)表すことができる現象は、幅広い。しかし単に定量的というだけで、なぜ数式で〜」という疑問になるかは怪しい。それに一般的には「自然現象」とみなされなくとも、定量的に記述できる現象もある。社会経済的な活動についても定量的な記述を行う取り組みはある。

  「自然現象がなぜ数式で記述できるか」という疑問は、単なる「現象を定量的に表現する」という作業だけに起因するものではないのではないだろうか?

 

 我々は「自然現象を数式で記述する」という問いを「物理現象が数式で記述できるのはなぜか」に絞ったが,「現象を定量的に表現する」という作業だけに起因してこの問いが生じるのではないということから出発して,さらにこの問いの意味する範囲を絞りたい。