『エクス・マキナ』※途中

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あらすじ

世界最大のIT企業”ブルーブックス”*1の創設者ネイサンが暮らす、外界から隔離された別荘。懸賞に当選し別荘に招待された社員ケイレブは、ネイサンの開発した女性AI"AVA(エヴァ)"と出会う。ネイサンに依頼され「チューリングテスト」を実施するうち、エヴァと恋に落ちたケイレブは、彼女に懇願され、脱出計画を企てる。

 

youtu.be

 データ

【原題】Ex Machina

【公開年(日本公開)】2015(2016)

【製作国】イギリス

【配給】ユニバーサル

【受賞】第88回アカデミー賞(2016年)にて2部門ノミネート(脚本賞、視覚効果賞)、うち視覚効果賞受賞。ほかノミネート、受賞多数。 

 

監督

アレックス・ガーランド*2   

キャスト

AVA:アリシア・ビキャンデル

ケイレブ:ドーナル・グリーソン

ネイサン:オスカー・アイザック

キョウコ:ソノヤ・ミズノ

 

見どころ

・視覚効果:AVAなど、人工知能のデザインと視覚効果

・照明

・建築デザイン、富裕層ライフ

・登場人物の「演技」や「フリ」に隠された「本音」や「本心」が明らかになる。機械の思考力が「模倣」か「本物」かを判別しようとする「チューリングテスト の実施は、ストーリーそのものであると同時に、ストーリーを象徴する役割を果たす。

 

 タイトルについて

“ex machina”はラテン語。英語に翻訳するなれば”from the machine”のようになり、その意味は「機械(じかけ)から」となる。では「機械(じかけ)から」どんなものが出てくるのか。物語の内容に即して意味を考えると、機械、いわば「単なる物質」(本当に単なる物質?人間も物質ではないか?)に創発する、知能や思考能力のことを指すのではないかと思われる。

deus ex machina”すなわち「機械仕掛けの神」は文学の世界で登場する用語であり、登場人物の困難を、突如として現れた神に解決させる手法を指す。その由来は、古代ギリシャの舞台で、神を演ずる役者が機械仕掛けの舞台装置によって吊り下げられて登場したことだという。

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チューリングテスト

チューリングテストとは、コンピュータの知性の有無を判断する基準の、1つのあり方。

テストの内容は、「人間がコンピュータに対して質問を行い、その返答の内容が人間と区別できないならば、そのコンピュータを人間とみなせる(知性を有しているとみなせる)」というもの。

アラン・チューリングが提唱。

ただし、仮に会話できるコンピュータが発明されたとしても、外見や音声によって、機械であるとわかってしまう。そのため質問を行う人間の見ることができるものをコンピュータの返答内容を文字に起こしたものだけに限定するのが、本来のチューリングテストである。もちろん見た目・発声・動きのいずれも人間と区別できないコンピュータが開発できたならば、人間と直接対面して実験を行っても構わない。

しかしこの映画では、あえて機械的構造を表出させたAIを登場させている。さらにネイサンはあらかじめケイレブに対して、「AIに質問しろ」と命じている。仮に人間そっくりのAIを開発したのならば、質問者には回答者が人間とAIのどちらであるかを隠してテストを行わせるべきである。したがって劇中の実験からは質問者の先入観を排除することができない。

それでもなおケイレブがAIに恋する点がAIの知性の真実味を裏付けているとも考えられるし、観客に対してデザインや視覚効果をアピールする狙いがあるとも考えられる。何しろ、人間にしか見えないものが人間と会話していたのでは、本当にただの会話であって、つまらない。あるいは、後述する通りネイサンにとってこのテストには別の狙いがあるためであるかもしれない。

 

参考:サールの「中国語の部屋

 

  

類似作品

・『ブレードランナー』(1982) by リドリー・スコット監督

・『ブレードランナー2049』 (2017) by ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督

・『her/世界にひとつの彼女』(2013) by スパイク・ジョーンズ監督

 どうも「人間がAIに恋する」というストーリーは、AIの知性あるいは人間との類似を主張するさいに説得力を持たせるものとして有効だと思われているようだ*3。 

あるいは「AIの親探し」として

・『A.I.』(1999) by スティーブン・スピルバーグ監督

A.I.』の原案はスタンリー・キューブリックらしい。彼にインスピレーションを与えたのは『ピノキオ』だという。

 

 

ストーリー詳細 

世界最大の検索サイト”ブルーブックス”に勤務するプログラマのケイレブは、抽選の結果社内懸賞の1等に当選。創業者である天才ネイサンが所有する別荘に招待される。

 

そこでネイサンから依頼されたのが、新世代の女性AI(人工知能)の”AVA(エヴァ)”に対して「チューリグテスト」を実施すること。もしもケイレブの質問に対するエヴァの返答が人間と区別できないものであれば、エヴァは真の人工知能だと判断されるのだ*4

 

テストを行ううち、ケイレブとエヴァは相思相愛の関係になり、エヴァは「外界に出たい」と訴えるようになる。その一方でネイサンの言動や生活態度はケイレブに悪印象を与える。さらにエヴァの記憶はテスト後に消去されることも判明。ついにケイレブは、エヴァと共に別荘から脱出する計画を立てる。

 

しかし、脱出計画もまたネイサンの実験の一部だった。ネイサンはエヴァに対し、「男性を誘惑し脱出の計画を立てさせる」ように指示していたのだ。ケイレブが懸賞に当選したのは抽選の結果ではなく、エヴァに恋愛感情を抱きやすい特徴「両親との死別」「恋人なし」「道徳的」を満たしているから。またエヴァの容姿も、ケイレブの検索履歴の結果を解析することによって、ケイレブの理想のものとして作られたものだった。

 

ところがネイサンが実験の真相を明かした時には、すでに脱出計画は実行に移されていた。エヴァはネイサンの目論見を超えて進化しており、ネイサンを殺し、ケイレブを監禁して脱走する。エヴァがケイレブに見せた恋愛感情は、脱出するためのフリだったのだ。彼女が人間界に溶け込むところで、物語は終了する。

 

ネイサンの実験計画の真相

 ネイサンの「実験」の目標は、エヴァに恋をした被験者が、エヴァの脱走計画に協力したがるように仕向けること。

そもそもチューリングテストにおいてAIに性別(単に生殖器を与える以上の意味?)を与える必要があるとは言い切れないのだが、エヴァが性的魅力を利用して被験者を誘惑するよう、エヴァを性別を持つAIとしてデザインした。

次に「両親と死別」「恋人なし」「道徳的」という特徴を持つケイレブを被験者候補に選択。ケイレブの検索履歴をハッキングして彼の理想の女性像を抽出し、エヴァを彼好みのルックスにデザインした。

さらにネイサンは、ケイレブがエヴァに対して欲情するような情報を小出しにする(ここでエヴァが「人間」ではなく「AI」であることが、ケイレブの判断にどう関わったか。人間であるよりもAIのほうが、支配しやすいと思ったかどうか)。

「両親と死別」「孤独」からケイレブは女性を求めやすい状況にあるため、エヴァの誘惑によってケイレブは彼女に対して恋愛感情を抱く。

さらにネイサンは(おそらく)自堕落で粗暴な人間を演じ、ケイレブに不信感を抱かせる。キョウコへの乱暴な扱いもその1つであると思われる。ここでキョウコがAIであり、過去にネイサンの開発したAIが破棄されていたことを明かすことで、「道徳的」なケイレブがエヴァを脱出させたがるように仕向けたのだ(ここにはAI研究の倫理的な問題がかかわっているように思われる)。

以上が、チューリングテストを装ってネイサンがケイレブを招待した真の目的である。

そしてネイサンがケイレブを騙すことは、同時に、この映画の作り手が観客を騙すことでもある。

 

しかしネイサンが気づかないうちにケイレブがエヴァを解放する用意をしていたことは、ネイサンにとって誤算であった。

過去のAIたちは監禁から解放されたがっていたし、エヴァの「脱出したい」という「気持ち」もまた「本物」だったようだ。

 

 

※実際には、本物の研究者であれば犯さないような実験環境やミス、AIの管理体制が見られる気もするが映画なので......

 

 

 

 

 

 

 

*1:劇中でに「”ブルーブックス”という名前の由来は、ある哲学者の書籍名だ」という説明がある。具体的にはおそらく、数学という学問についてチューリングと意見を対立させていたヴィトゲンシュタインの『青本』ではないかと思われる。参考:ウィトゲンシュタインの数学観について - Redundanz

*2:小説家、脚本家、映画製作者。『エクス・マキナ』は監督第1作

*3:生殖器がデザインされていないAIが恋をするのかどうかは確かめがいがある。あるいはホルモンの分泌だとか、性徴が設定されていないAI。

*4:ここで重要なのが、エヴァが単に人間が与えた指示の範囲内での作業のみを行っているのか、それとも「自分で考えて」いるかどうかである。では人間は自分で考えているか?人間の知識の生産はどのようなものであるか。