『ブレードランナー2049』※途中

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【年表と設定】

世界では環境破壊が進行し、動植物は死滅している。作り物の動植物が開発された。 

2019年『ブレードランナー』(1982)

    タイレル社の生産するレプリカントのネクサス6型が登場する。

    ネクサス6型には4年の寿命がある。

2022年『ブレードランナー ブラックアウト2022』(2017)

2036年『2036:ネクサス・ドーン』(2017)

2048年『2048:ノーウェア・トゥ・ラン』(2017)

【前提知識】

奴隷として使役されていたレプリカントだが、2022年の「大停電」のように度重なる反乱を起こしたため「レプリカント禁止法」が制定される。そのためタイレル社は倒産。

だが「合成農法」*1により財を成したナイアンダー・ウォレスがタイレル社を引き継ぎ、従来型よりも従順なレプリカントを開発。2036年には、社会・経済の維持のためレプリカントの生産が再度合法となる。

一方寿命がないネクサス8型のレプリカントの中には、脱走し人間の支配から逃れた者がいた。現在の「ブレードランナー」の仕事は、ネクサス8型を「引退」させることだった。

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【本編】

ブレードランナーの”K”*2は、新型レプリカントでありながら旧型レプリカントを”処分”する日々を送っていた。上司の”マダム”の指示で行動し、”処分”後は人間的な感情が芽生えていないか検査*3を受ける(フォークト=カンプフ検査)。職場やアパートで差別を受けつつ、帰宅した後はウォレス社製のホログラム型AI”ジョイ”*4とささやかな時間を過ごす。

 

Kはある日、レプリカントのサッパーを処分。彼の敷地から見つかったのは女性の遺骨。死因は出産らしいが、識別番号の刻印されたそれはレプリカントだった。作られたレプリカントであれば魂の存在は認められないが、もしもレプリカントが生殖するとなったならば、人間によって使役されてきたレプリカントの地位が向上するということになり、社会的な変革は避けられないだろう(という発想のもとで劇中の社会が維持されている)*5。そこでマダムはKに対し、生まれてきたレプリカントを見つけ出し処分するよう命ずる。

 

Kはウォレス社を訪問し、出産によって亡くなったレプリカントの情報を入手しようとする。だが大停電の影響により、電子データはほとんど残っていなかった*6。わずかに残っていたデータから、そのレプリカントが2019年にデッカード刑事と共に失踪したレイチェルだと判明。Kはまた、レイチェルがデッカードに恋愛感情を抱いているということも指摘する。どうやらレプリカントの子供の父親は、デッカード刑事のようだ*7

 

ウォレス社を訪れたKに対応したのが、新型レプリカントでありながらウォレスから名前を与えられた*8”ラヴ”だ*9。Kがレイチェルの情報を入手しようとすると即座にラブに連絡が入ったことから、レイチェルはウォレス社にとって何か特別な存在であったようだ(単に失踪したためか?)。

 

ラヴはウォレス*10を訪れ、レイチェルについて報告する。ウォレスはレプリカントの自力での繁殖を夢見ており、ラヴに対し子を見つけるよう命ずる。

ラヴはLAPDに侵入し、レイチェルの遺骨を盗み出す。

 

Kは再びサッパー邸を訪問。レイチェル*11の写真と、木の根元に刻まれた「2021年6月10日」という”日付”を発見。その日付は、Kの記憶に登場する木馬に刻まれたものと同一だった*12

Kは2021年6月10日生まれの子供を探すと、DNAデータが全く同じ男女を発見。怪しい。1人は女児で、遺伝子疾患「ガラテヤ症候群」*13のためすでに死亡。もう1人の男児は消息不明。そこで2人が共に育てられたという孤児院へ向かう。すると2021年の記録はすでに抹消されていた。

 

Kは孤児院が、自分の記憶に出てくる場所だと気づく。そして記憶通りの木馬を発見。あの記憶は本物だったのだろうか*14。だがレプリカントは、精神安定のため作り物の記憶を移植されている。そこでKはウォレス社に委託されて記憶を製作しているステライン博士を訪問すると、記憶が本物であるとの断定を得る。本物の記憶を移植することは違法なため、Kは自分こそが名も知らぬ女性レプリカントの子供ではないかと疑う*15

 

動揺したKは、フォークト=カープフ検査に失格。停職を命じられる。これまで生身の肉体を求めてこなかったあのKが、娼婦のレプリカント*16を買い、ジョイをシンクロさせて一晩を過ごす*17。翌朝、娼婦は謎の女の指示を受けているらしく、Kがシャワーを浴びている隙に、コートに発信器を忍ばせる。

 

さて、検査に失格したKもまたブレードランナーによって処分されるだろう。衛星による追跡を防ぐため電波をシャットアウトするK*18ブレードランナーという職務から解放されてなお、デッカードを探そうとするK*19は、木馬がかつて強い放射線を浴びたことを知る。

その場所*20に向かうKは、ホテル*21デッカードを発見。彼の口から「レイチェル」の名を知る。

 

そこを襲撃したのがラヴの一味である。エマネイターのロケーション機能がシャットアウトされたのでウォレス社はKの位置を特定することができないが、マダムはKの車*22の位置を知っている。そこでラヴはマダムを襲撃し、彼女の顔認証機能を利用してKの現在地を特定したのだ。

 

ラヴはKに重傷を負わせ、デッカードをさらい、ウォレス社へと連れていく。レプリカントの子供を産んだレイチェルの遺骨と、父親であるデッカードを揃えたのだ。ウォレスはデッカードに子供の居場所を吐くように言う。見返りとしてレイチェルの複製を登場させるもデッカードは偽物*23だと拒否。ウォレスはデッカードに情報を吐かせるため、ラヴに命じて彼をオフワールドへ*24連行させる。

 

一方重傷を負ったKは、自分に発信器を取り付けた娼婦の所属する、レプリカントレジスタンス組織に救出される。その組織の幹部らしき女によれば来たるべきときに「レイチェルとデッカードの娘」を表舞台に出すと言う。自分が「特別な存在」でないと知り落胆するK*25。彼に対して女は「デッカードを殺し、「特別な存在」の居場所の秘密を守れ」*26と命ずる。

 

Kはデッカードを連行するラヴを襲撃。彼女を殺し、デッカードを救出。デッカードの娘であるステリン博士*27の元へ父親を連れて行き、自らは生き絶える。Kにとってデッカードとは何だったのか*28

 

 

【推論】

レプリカントの女性の遺骨が発掘される

・死因は出産である

・木の根元には「2021年6月10日」との日付→墓銘なので命日=出産日では?

 

①母親のデータを探す(ウォレス社)

 →”大停電”(2022)のため残存データほぼ皆無              ←デッカードら?

 →わずかなデータからわかること

  ・デッカードと逃亡したレプリカントらしい

  ・レプリカントデッカードを好いているらしい(つまり父親はデッカード?)

 

②子供のデータを探す

 →2021年6月10日生まれでDNAデータの等しい男女が(怪しい)  ←デッカードら?

  2人とも同じ孤児院育ち

 →孤児院に向かうもデータは隠滅済み              ←デッカードら?

 

もしも捜査官がKでなかったならば、この時点で捜査終了である。しかしたまたま、Kには「2021年6月10日」と刻まれた木馬の記憶があった。

・しかしこの記憶は、レプリカントの精神衛生のために移植された作り物の記憶かもしれない

 (アイデンティティには記憶が関係しているという『ブレードランナー』の姿勢)

 →ステライン博士によって記憶は本物であると断定

  しかも記憶通りの場所から記憶通りの木馬が発見される

・では誰かが本物の記憶をKに移植したのではないか?      ←デッカードら?

 →本物の記憶をレプリカントに移植することは違法である

  (そのためKはこの記憶が自分自身の記憶だと考える)

  *29

 

しかしKは「本物の記憶が、違法に自分に移植された」証拠を探そうとはしなかった

 

 

ヴィルヌーヴという監督】

ヴィルヌーヴという監督は、謎解きや捜査のさいに人間が行う「推論」に興味を持った人間であると思う。しかし彼がその物語の中で扱うのは、決して美しい推論ではない。彼の作品に登場する推論は繊細微妙であり、しかもしばしば誤謬が入り込む。特に「推論的」な彼の映画は、(自分の知っている範囲で)『灼熱の魂』『プリズナーズ』『複製された男』『ブレードランナー2049』なのだが、いずれの作品にも何かしらの意外性というかどんでん返し、「前提を疑え」的なところがある。これらの作品の中で推論を行うのは、映画の登場人物でもあり、観客自身でもある。映画の中で手がかりが示され、映画の登場人物が推論を行い、並行して観客もまた推論を行うというわけである*30。ところが観客の推論の判断材料というのは、映画の登場人物の判断材料よりも多いことがある。というのも音などによって「演出」がなされるからである。これは映画の作り手が、観客を誤謬へと誘導する1つのやり方である。あるいは、何が事実であるかというのを全て描き切らずに省略的・端的な表現を取るというのも演出なのであるが、これを逆手に取るという手法が取られることもある。

推論を行う人間:登場人物、観客

観客が推論を行う際に参考にするもの:物証、状況証拠、演出(登場人物にとっての世界の外にある)

 

*1:人間の体が、合成された食料によって置換されていく。これもまた「自然」と「人工」の境界線を曖昧にする演出なのであろうか?

*2:Kには名前がない。ウォレス社の生産する新型には名前がついていないようだ。どうやらレプリカントの生産は再開されたものの、その扱いは以前よりも人間らしいものから遠ざかったようである。

*3:どうもこのテストというのが生殖を連想させる部分がある。

*4:起動音とシャットダウン音のメロディがついているあたりが、Windowsっぽくてリアリティを加味している。

*5:生殖するかどうかによらず、人間との区別がつけられないものとしてレプリカントが描かれているようにも思う。彼らは愛するし、読書し、音楽を楽しみ、冗談を言う。ところでこの「生殖する存在には魂がある」というような発想はカズオ・イシグロの小説『わたしを離さないで』にも登場することを思い出す。確かに現行の「生物の定義」の1項目だとか「生物と無生物の区別」の目安の1つとして「自己増殖能力(生殖)」というものが含まれる。すると生殖をしないレプリカントは無生物ということになる。しかしそういった「生物の定義」というのは、「私たちが生物とみなしているものは、どのような特徴を持つか」というところから出発する。つまり具体的な特徴よりも「それは生物である」という認識のほうが先行しているのだ。先に「ライオンは生物である」という認識がまず先にあってから「ではライオンが石とは異なるのは、どのような点においてか」という区別が行われるというケースが大半である。したがってもし我々がレプリカントを生物とみなすのならば、それにしたがって生物というものの定義が変わってくる。つまり「生殖する」という項目を外すことによって、生物の定義が緩められるのである。あるいは「生殖する生物」「生殖しない生物」という段階が生じ、「広義の生物」とか「狭義の生物」とかが生じることになる。では我々はレプリカントを生物とみなすか?少なくとも表装的にはレプリカントは生物だけれども、しかし皮を剥いだらメタルな存在かもしれない。でもレプリカントは皮を剥いでも人間と一緒である(生殖機能や人間への従順さを除いては)。なので生殖能力以外の点でもしもレプリカントと人間を区別したければ、一見するだけでは分からないような項目を持ち出す必要がある。

*6:

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公式前日譚『ブラックアウト2022』ではこの大停電がレプリカントの仕業であることが示される。本編でも前日譚でも言及はないが、この大停電はレイチェルら(?)のデータを消失させるためのものであり、デッカードが関わっていたのではないかという仮説を立てたくなる。

*7:しかしレプリカントと生殖をした人間であるかレプリカントであるかは明示されずに終わる。ネクサス6型の寿命は4年なので、最低30年間は生きてるデッカードは少なくともネクサス6型ではない。ネクサス8型なら寿命はないが、2019年時点で8型は量産されていない。最新型が6型である。2019年時点でブレードランナーを引退していたデッカードレプリカントであるとすれば、タイレル社が特別に開発したものということになる。あるいはデッカードは人間である。

*8:名前が与えられるのが特別なことであるというのは、あたかも江戸時代の「士農工商」のようである。武士と、権力のある商人にしか名字帯刀が許されない。苗字を持てるのは特権階級だけなのである。

*9:Kがジョイのユーザであることを知ったジョイに「我が社の製品に満足しているか」と聞かれ、Kが「とてもリアルだ」と答えるのは傑作である。ジョイの存在は、未来的な生活を描くためでもあり、Kの孤独を描くためでもあり、またレプリカントの生殖への欲求を描くためでもあり、そしてレプリカントと人間との「距離」を描くためでもある。レプリカントに比べてより人間から遠い存在であるホログラムを登場させることによって、レプリカントの人間らしさが際立つというわけだ。

*10:エスのような風貌で、芝居掛かった演説をする。彼は盲目のようだが、空中を浮遊する小型カメラにワイヤレスで接続することにより視覚情報を得ることができる。なぜ彼は盲目の設定なのか?彼はデッカードと会うとき、カメラを用いない。それはなぜか?

*11:ただしKはレイチェルという名を知らないし、レイチェルという名は記録にも残っていない。

*12:Kがマダムに対して記憶を告白する場面で、マダムがKを誘うような発言をし、Kが「仕事する」と躱す場面がある。これはマダムがKを試したのだろうか?ところでこの場面、マダムがKを「人間らしい」などと発言するのは、Kが特別な存在であるという方向への誘導ではないか?

*13:この疾患はどうも実在しないようである。ところで心理学には「ガラテア効果(ピグマリオン効果)と「ゴーレム効果」というのがあるらしい。

*14:記憶とアイデンティティ

*15:ただしその根拠は曖昧である。DNAデータの全く同じ2人の男女がおり、女児はすでに死亡していて、生きているのが自分と同じ男児であるからといって、生まれた子供がレプリカントだという確証はない(しかも女児の死亡も偽装だと後からわかる)。さらに、自分の記憶が、本物の記憶を違法に移植したものだという可能性が排除しきれていない。

*16:以前この娼婦にKは会っている。そのとき彼女に言われたのが「生身の女には興味がないの?」である。

*17:ここで思い出されるのが『her/世界でひとつの彼女』である。ところで彼が停職になってすぐにやることがセックスとは、これまで押さえつけてきたものの発散なのか、それとも生殖によって生まれた特別な存在であるかもしれないという自覚の影響なのか。

*18:ところで”エマネイター”がない限り、ジョイのホログラムは自宅の天井に備え付けられた映写機から投影されるようである。エマネイターの機能とは、自宅備付型の映写機がない場所でもホログラムを投影することだ。ということはエマネイターは小型の映写機なのか?というとエマネイターが映写機能を持っているような描写はない。ということはエマネイターにはGPS機能がついており、衛星がエマネイターの位置を感知して衛星や、各地に設置された「映写スポット」のような場所から投影をしているのではないか。しかし衛星からの光が遮断されそうな屋内や、映写スポットのようなもののなさそうな場所でもジョイのホログラムは現れる。しかもKがエマネイターの位置特定を不可能にした後でもジョイが投影されるのである。ということは?やはりエマネイターがホログラムを出現させる機能を持っているのではないか?(調べてみると確かに”emanate”は「(光などを)発散する」という意味を持つ)しかもその原理は単純な映写ではないのではないか?そもそもホログラムってどういう原理?

*19:ここに来てKのデッカードの行動は、職務ではなく、父親探し、アイデンティティ探しという目的のためにある。

*20:大停電のさいに放射線が使用されたようだ。

*21:人々が現在も生活する都市が暗く湿って退廃的な場所であったのに対し、このホテルの所在地する環境の特徴は赤く乾燥した土であり、ホテルの内部には伝統的な文化が残っている。このホテルは人々が急いで逃げたしたかのように荷物やゲームが残されており、大停電の際に放棄されたことがわかる。

*22:Kは停職のさい警察バッジと銃を預けたが、車は預けていない。つまり車はKの私物だということである。しかしKの車(プジョー製!)にはブレードランナーとしての職務で機能が搭載されているが……?

*23:デッカードによればレイチェルの瞳は緑色だったと言う。だがショーン・ヤングの瞳はブラウンである。けれども前作『ブレードランナー』でレイチェルがフォークト=カンプフ検査を受けるときに使用された映像の瞳が緑色だったので、レイチェルの瞳は緑色ということになったのだろうか

*24:一体デッカードはどこへ連れていかれようとしていたのか?そこに何があったのか?

*25:彼は自分が「特別な存在」である可能性に望みを抱いていたけれども、おそらく自分が「特別」でない可能性も排除しきれてはいないことに気づいていたのではないか。ところでKがレプリカントの子供ではないということは、Kの記憶は女児のものであるということになるし、DNAデータの改ざんされていた男女のうち男児の方は、物語に全く関係のない人間の子供だということになる。

*26:デッカードはレイチェルの出産前に逃亡したので居場所はおろか性別も知らない。そのためデッカードがウォレスに提供できる情報とは?おそらく「特別な存在」についての直接的な情報ではなく、協力者の名前や足取りなどの隠滅の経緯といった間接的な情報だったのだろう。

*27:何と言う飛躍!しかしこの物語で行われる推論は、複数の選択肢があるとき証拠なしに1つを選んでしまうようなものである。

*28:命令ではなく大義のための死。人間らしさ。

*29:しかし本当に自分自身の記憶なら、他の記憶も残っていそうなものであるが

*30:多分推論しない観客もいる。なので推論するかどうかによって自分に合う映画の種類というのは変わってくるし、また映画の種類に合わせて推論するかどうか判断しないと映画を楽しめなかったりする