『シェイプ・オブ・ウォーター』

 

youtu.be

 

冷戦時代、アメリカとソ連とのあいだでは宇宙開発競争が繰り広げられていた。
1963年*1アメリカの田舎にある航空宇宙開発センターで、夜勤の掃除係としてはたらく主人公イライザ。喉元に3本の傷痕を持つ彼女は、孤児院で育ち、幼少期から話すことができなかったため、孤独を感じていた。
彼女が住むのはほとんど客入りのない映画館の上階にあるアパート。イライザは夜に目覚めると、風呂に入ってマスターベーションをし、服を着て、靴を磨き、隣人の画家ジャイルズを訪れ、テレビを観ながら談笑する。
写真が普及しつつあった時代にあって、ジャイルズはリストラにあって失業中。彼はまた、近所のパイ屋の若者に惹かれていた*2
ジャイルズの部屋を出ると、彼女はバスに乗って出社。比較的親しくしている同僚のゼルダは黒人。彼女が夫について愚痴るのを聞きながら仕事をするところまでが、イライザの生活のルーティンだ。
 
※あまり以下のようなカテゴリを用いたくないのだが、つまりイライザはmuteの女性、ジャイルズはゲイの失業者、ゼルダは黒人の女性で、いずれも当時の(そしてもしかしたら今でも?)社会的弱者な訳である。
 
ある日研究所に運ばれてきたのは、南米の奥地で発見された、「不思議な生きもの」だった。川に住んでいた彼*3は、水かきとエラを持ち、水色の肌をした二本足の生き物で、原住民によって神として崇められていた。研究の目的は「不思議な生きものが持つ過酷な環境への適応能力を、宇宙空間における人間の活動に応用しよう」というものだった。
不思議な生きものの警備責任者として一緒にやってきたのが、ストリックランドだ。彼は声の出せないイライザや女性や黒人に対して威圧的で、「白人優位・男性優位」の考え方の人間だった。水棲生物に対しても、電気棒を使用した恐怖による支配を試みていた*4。ある日、反抗した不思議な生きものによって、ストリックランドは左手の薬指と小指を噛みちぎられる。そのことが、不思議な生きものに対する彼の加虐嗜好に拍車をかけていた(完全に逆ギレである)。
 
※社会的弱者のイライザ、ゼルダ、ジャイルズに加えて、この不思議な生きものも抑圧される側に立つ。
 
そんな不思議な生きものにイライザは惹かれる。研究員たちがラボから不在となった隙を見計らって、彼女はこっそりと彼に卵を与え、音楽を聴かせ、手話で会話した。彼女は、この水棲生物だけが「ありのままの自分」を見てくれると感じていた。この水棲生物にとっては、彼女が人間の言語を声に出せるかどうかは関係ないのだから*5
 
ところが、不思議な生きものの生体解剖の実施が決定してしまう。研究員であるホフステトラー博士は反対したのだが、どういうわけか警備責任者のストリックランドが、研究所のボスである軍人の元帥に対して強く主張したためだ*6
物陰に隠れて話を聞いていたイライザは、水棲生物を研究所から脱出させ、海へと逃す計画を立て、隣人のジャイルズに協力を求める。はじめジャイルズは反対していたが、復職が叶わなかったこと、そしてパイ屋の若者が黒人に店の利用を許さなかったうえジャイルズが向けた好意を拒絶し追い出したこと、がきっかけとなって、イライザへの協力を決める。
 
※物語は「差別を受ける側が、同じく虐げられる者を助ける」という構図になっている。
 
計画当日、イライザは洗濯物に水棲生物を紛れ込ませる。そして洗濯屋に扮したジャイルズが、運搬トラックで研究所まで迎えにくる。しかし守衛から不審に思われたジャイルズは、ゲートで足止めをくらう。
その2人に協力したのが、ホフステトラー博士だった。彼は知的好奇心や愛知的感情から、水棲生物を殺すことに反対だった。博士は持っていた爆弾で研究所の電源を落とし、毒物をセキュリティに注射して殺した。
実は博士は、ソ連から来たスパイだった。ソ連の当初の目的は、宇宙開発競争でアメリカに負けないよう水棲生物を盗み出すことにあった。しかし生体解剖の期日があまりに早すぎたため盗み出すのは間に合わなかった。となると、アメリカに有利な解剖結果が得られる前に水棲生物を殺すしかない。そのため博士は上司から、水棲生物を殺す毒物の注射器と、電源を落とすためのマグネシウム爆弾を預かっていたのだ。
だがアメリカもソ連も不思議な生きものを殺そうとしているいま、博士は、巨大なものから離れ、自分の信条にしたがって個人として行動することに決めたのだ
 
※ホフステトラー博士もイライザと同様、「ありのままの姿」がマジョリティの要求から乖離しているのだ。
 
博士の協力のおかげで、イライザとジャイルズは水棲生物を盗み出し、イライザの家の風呂に住まわせることに成功した。さらに同僚のゼルダがタイムカードを切ってくれていたおかげで、イライザは水棲生物を助け出したときにはもう退勤したことになっており、アリバイが成立していた。そのため、水棲生物を盗み出した犯人の候補から外れることができた。
あとは雨が降り水位が上昇して、港の水門が開く日を待つのみだった。そうすれば不思議な生きものを海へと逃がすことができる。イライザはカレンダーをめくり、雨が降って水門が開くであろう日に印ををつけた。
 
隠れ家での生活中、イライザと不思議な生きものは初めて交わる。
また、不思議な生きものには人間を治癒する能力があると判明する*7
 
一方ストリックランドは、水棲生物の脱出にソビエトのスパイが関わっていると見当をつけていた。マグネシウム爆弾がイスラエル製であり、ソビエトはしばしばイスラエル製の兵器を使用するからだ。
そしてストリックランドは、博士の経歴に疑問を持ち、博士がスパイだと見当をつけて自宅付近に張り込む。そして博士と彼の「同志*8」の密会現場を押さえ、博士の「同志」を殺し、博士を拷問して、水棲生物を盗み出したのがただの掃除係であることを突き止める(縫い合わせた2本の指が化膿するわ、上司である元帥に失敗したら追放だと言われるわで、ストリックランドは精神的に追い詰められている)。
ストリックランドはゼルダの家を訪れて彼女を脅す。すると怯えた彼女の夫*9が「不思議な生きものはイライザの家にいる」とバラしてしまう。ストリックランドはイライザの家に向かう。(ここでゼルダを連れて行けばイライザの逃亡を防げたが、ゼルダを置いていったせいで)ゼルダは「ストリックランドが向かっている」とイライザに電話で警告したので、イライザは不思議な生きものを連れてジャイルズと共に港まで逃げることができた*10
 
イライザたちは水門のある港までたどり着き、不思議な生きものに別れを告げる。そこにストリックランドが追いつき、発砲。イライザと不思議な生きものは銃弾を受け、倒れこむ。だが不思議な生きものは驚異的な治癒能力を発揮*11して復活し、ストリックランドの喉元を爪で一閃。ストリックランドは生き絶える。
さらに不思議な生きものはイライザを抱き上げると海へ飛び込み、彼女の喉の3本の傷の反対側に、もう3本の傷をつける。そして彼がイライザに口づけをすると、傷口は開き、エラとなる。イライザもまた、水中の生き物となったのだ。
 
不思議な生きものとイライザが海へと飛び込んだのを見送ったジャイルズは、2人が愛し合いながら、いまもどこかで幸せでいるであろうことを願いながら、過去を回想するのであった(完)
 
 
****
スペイン内戦のような時代背景があり、不思議な生きものとの触れ合いがあり、孤独な女性主人公が何か目的を達成しようとするが、威圧的な男性が立ちふさがる、というのはデル=トロ『パンズ・ラビリンス』と共通した脚本づくりである。
****
わりとシンプルに反差別・反偏見的な立場を取る映画ではあるのだが、若干のエログロ下ネタをスパイスすることで、優等生的にはならないような中和がされている。賞レース向けのメッセージが込められ、セットも完璧に作られ、素敵な音楽で感動を誘おうとする映画ではあるのだが、エログロ下ネタを混ぜることを怖がってはいない。
****
日本語字幕がイエローグリーン
青緑基調の色彩、ティール
ロマンティック&ホラー
エロとグロ
時代性と音楽、アレクサンドル・デプラ(神秘的音楽)
差別への反抗
イケメンも美女も不在の作品→これについて町山智浩さんによる解説が大変参考になります。
 

*1:劇中で明言されることはないが、朝鮮戦争における釜山の戦い(1950年)のことを、ストリックランドが「13年前」のことだと述べるシーンがある。公民権法が成立し、黒人差別が違法となるのは翌年1964年のことである。ただし公式HPのSTORYでは「1962年」となっている。

*2:物語はジャイルズによる回想という形をとるようだ(ジャイルズが実際には目にしていないしイライザから伝聞することもできない、神の視点からシーンも描かれるが)

*3:イライザは、彼の生殖器を確認する前から不思議な生きものが男性であると確信していたが、それはなぜだろうか?

*4:研究員でない彼が一体なぜ水棲生物と関わる必要があったのか、なぜあそこまで研究に口を出す権限があったのか謎である。研究といっても具体的に何をするのかが描かれていないので、なぜ彼が不思議な生きものをいじめ服従させようとするのかは謎だ

*5:不思議な生きものとイライザとの信頼関係の形成や恋愛感情の芽生えは、あまり詳細に描かれていおらず、ややうまく行き過ぎ感はある

*6:どうもストリックランドには単なる警備責任者以上の、研究の方針に関わる発言権があるようだ

*7:おそらくこれが、彼が神として崇められていた所以だろう。

*8:共産党員は、しばしば互いを「同志」と呼ぶ。「同志スターリン」など。

*9:ここで白人男性に屈する黒人が描かれる

*10:しかしストリックランドはゼルダがイライザに連絡するという後々困ることをするとは思わなかったのだろう結果的にはストリックランドは死んだので、困ることにはならなかった

*11:さっきまで風邪を引いたのか何なのか具合の悪そう(なぜ彼の元気がなかったのか?お風呂は狭かった?)だった彼だが、突然元気になる。治癒能力で具合が悪いのは治せなかったのか?